SS 切ない

僕の声が聞こえてたら、手を握ってほしいんだ【前編】

投稿日:2022年2月22日 更新日:

全8章からなる小説。
すこし長いですが、とても良い話なので、是非最後までご視聴下さい。
孤独と絆を感じられる、涙無しではいられない様な話です。

小説家の乙一さんと似た空気を感じます。

Youtubeリンク先:https://youtu.be/6chXoahOWmM

元スレッド:https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1370875358/

男「僕の声が聞こえてたら、手を握ってほしいんだ」

1 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:42:38 ID:BaXkk/Zo


1


「ありがとうございました」
僕は椅子から立ち上がり、医者に背を向けて言った。
こんなところ、もう二度と来ない。

「気を落とさないでほしい。きっと助かる方法はある」
医者はしゃがれた声で、なぐさめるように無責任なことを言う。
どうも業務的な発言に聞こえるのは、
僕の気分が最悪に近いだからだろうか。

もう医者の顔を見たくなかったので、
「そうですね」と適当にあしらい、
振り返らずに早足で診察室を出た。

夢を見ているような気分だ。まさに悪夢だ。
ただでさえ僕は病院と医者が嫌いなのに、
病院で医者に余命を宣告されるなんて、悪夢以外の何物でもない。
真っ白な壁と医者の声に挟まれて、
ゆっくりと潰されているような、いやな感覚がした。

2 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:44:22 ID:BaXkk/Zo

「で、どうだったの? 結果は」
彼女は待合室の硬いソファーから腰を上げながら言った。

彼女は僕の友達だ。もう二十年ほどの付き合いになる。
こういう場合は、幼馴染という表現のほうが適切なのかもしれない。
いや、腐れ縁ってやつか? とにかく、僕の大切な人だ。

彼女は昔からお節介な人だった。それは今でもまったく変わらない。
そのおかげで、いま僕は好きでもない病院に来ている。
何も左手の小指がもげただけで病院に来ることはない、と
僕は思ったが、彼女は病院に行くべきだと言い張った。

彼女はいつも正しい。僕はいつも間違っている。昔からそうだ。
それに僕は『押し』に弱い。不思議なことに、彼女に押されると尚更だ。
だから、いま僕はここにいる。そして今回も彼女は正しかった。

3 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:45:56 ID:BaXkk/Zo

「結果は、良くはなかったね」

「そりゃそうでしょうよ。いきなり小指が千切れるなんて、どう考えてもおかしもん」
彼女はご立腹だ。「で、これからどうする? 入院して手術でもすれば治るの? それ」

「いや」僕はかぶりを振った。「もうこの病院には来ない」

「はあ?」彼女は怒りと呆れを喉から吐き出した。
「君が病院嫌いなのは知ってるけど、今回はそんなこと言ってられないよ?
もっとさ、ちゃんと医者に診てもらわなきゃ。そもそも、なんて病気なの? 君」

「分からないんだ。なんて病気なのか、
どうやったら治るのか。なにも分からないんだ」

「え?」

4 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:46:46 ID:BaXkk/Zo

僕は深呼吸してから訊いた。
「君はいつも正しい。だから、ちょっと訊きたいことがあるんだ」

「何?」

「君は医者の言うことを信じる?」

「まあ、ある程度は」

「そうか。僕は信じないけど、
君が信じるんなら、きっとそれは正しいんだろう」

「ねえ、大丈夫? どうしたの? 他にも何か言われたの?」
彼女の血色のいい頬から、だんだんと赤みが失せてゆく。

「あと一年と三日」僕は右手の指を三本立てて、弱々しく微笑んで見せた。
まだ夢を見ているような気分だった。

「あと一年と三日しか生きられないんだってさ、僕」

5 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:48:50 ID:BaXkk/Zo

「なにそれ、三日って。つまんない冗談ね。エイプリルフールは一週間前よ」
彼女は引き攣った笑みをこぼした。
しかし、僕がばつが悪そうに頭を掻くと、
彼女の顔からふんわりとした雰囲気が消え失せた。「嘘でしょ」

「嘘みたいだろ。僕も信じてないけどさ、医者はそう言ったんだ」

「藪医者よ、そいつ。他の病院に行こう。もっと大きな病院にさ」

「そうだね」僕は肯定した。
「病院はいやだけど、このままじゃ気分が悪い。
もっとしっかり調べてもらわないとね」

「お、めずらしくその気だね。わたしは嬉しいよ」
彼女はちっとも嬉しそうじゃなかった。

6 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:49:32 ID:BaXkk/Zo

「それに、僕はまだ死にたくない。まだやりたいことがあるんだ」

「やりたいことって、たとえば?」

「たとえば」僕は考えるふりをした。「まあ、とにかくいろいろだ」

「どうせ大したことじゃないんでしょ?」

「いや、すごく大したことだ」

「ふーん。まあ、そんなことは何でもいいよ」彼女は踵を返した。
「とりあえず外に出よう。病院ってなんだか息苦しい」

「同感だ」

7 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:50:33 ID:BaXkk/Zo

自動ドアをくぐり、病院の外に出た。小鳥のさえずりが鼓膜を軽く揺する。
四月の空気は、まだ少し冷たい。
僕らは冷たい空気で肺を洗うように何度も深呼吸をした。

頭上の樹の葉には何粒もの水滴が付いてて、足元のアスファルトが湿っている。
ところどころに、小さな水溜りも見受けられた。空は晴れ渡っているが、
おそらく僕らが病院にいる間に雨でも降ったんだろう。
空には薄っすらと七色の橋が架かっていた。

「ほら、さっさと歩く」
彼女は僕の右腕を掴み、ぺったんこの靴でアスファルトを蹴りながら歩き出した。
彼女が脚を動かすたびに長いスカートが
ゆらゆらと揺れるので、歩きにくくないのだろうか、と思う。

「どこに行くの?」
煙草を銜えながら車椅子に乗った老人が、
僕らのほうを見てにやにやしていたので、
とりあえず僕は苦笑いを浮かべながら一瞥しておいた。

8 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:51:30 ID:BaXkk/Zo

「どこって、病院に決まってるじゃないの」

「え、きょう行くの?」

「当たり前じゃない。思い立ったが吉日よ。
なに? もしかして、明日行こうとか思ってたの?」

「うん」僕は嘘を吐くのが苦手なので、正直に言った。

「たぶん、君は明日になっても『ああ、めんどくさい。明日でいいや』とか思ってるね」

「よく分かってるじゃないか」

「もしかして馬鹿にしてる? 君、自分の小指が
千切れたってのに、よくそんな平気でいられるね」

「そりゃ、びっくりしたに決まってるじゃないか。でもそんな、
いきなり余命宣告されたって信じられないよ。なんだか夢を見てるみたいだ」

数秒の沈黙の後、「そうよね」、と彼女は肯定した。「悪夢みたい」

9 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:52:23 ID:BaXkk/Zo

彼女は僕を引きずりながら駐車場まで歩き、僕を車の助手席に押し込んだ。
そして運転席に座り、エンジンをかけ、さっさと車を発進させた。
スピーカーから流れるベースの低音と、
聞き覚えのある男性の歌声が、僕の内側に響く。

「悪いね。せっかくの休日に、わざわざこんなことさせちゃって」
僕は窓の外で流れる景色を漫然と眺めながら言った。

等間隔に植えられた街路樹。光の灯っていない街灯。
ペンキが剥げた歩道橋。濁った川。うんざりするほどの数のコンビニ。
ガソリンの浮き出た水溜り。長靴で跳ね回る子ども。赤く光る信号機。

医者の言葉を信じたわけではないが、飽きるほど見たような景色でも、
あともう数えられるほどしか見られないのかもしれないのかと思うと、
少し感傷的な気分にさせてくれるものだ。

10 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:53:32 ID:BaXkk/Zo

「べつにいいよ。わたしも好きでやってるんだし。
それに、君に死なれるとわたしが困る」

「どうして?」僕は彼女のほうを向いて言った。
『好き』ってのは何に対しての言葉なんだ、と
訊きたくて堪らなかったが、そのことについては黙っていることにした。

「ただでさえ少ないわたしの友達が、さらに少なくなっちゃうからね」
彼女はハンドルに凭れかかりながら言う。

「ああ」僕はふたたび窓の外へ視線を滑らせた。「それは困るね」

11 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:54:17 ID:BaXkk/Zo

僕らはそれっきり黙り込み、スピーカーから鳴る音楽に耳を傾けた。
重い沈黙ではなく、心地の良い沈黙だった。このまま、
いつまでも病院に着かなけりゃいいのになんて、くだらないことを思った。

しかし、物事というのはそう都合良くは進まない。
しばらくすると、彼女が「はい、着いた」と小声でこぼしたので、
僕はゆっくりと車を降り、湿ったアスファルトを踏みつけた。

12 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:55:05 ID:BaXkk/Zo

*


神様ってのは、気まぐれで理不尽で、不平等だ。

13 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:55:50 ID:BaXkk/Zo

*


「で、どうだったの? 結果は」
彼女は待合室のソファーから腰を上げながら、
一字一句違わず数時間前と同じことを言った。
待合室には二十ほどのソファーがあるが、その半分以上が空席だ。

「やっぱり君の言ったとおり、あの病院の医者は藪医者だったよ」

「じゃあ、あの病院の診断は間違ってたの? よかったあ」
彼女は顔の筋肉をほぐし、大きく息を吐いた。

「うん。僕の余命は、あと一年と三日じゃなくて、あと一年と五日だった」

「は?」どうやら、彼女の顔の筋肉はふたたび凍りついたようだ。

14 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:56:41 ID:BaXkk/Zo

「このままのペースで病魔が侵食してくると、
僕は一年と五日で駄目になるんだってさ」

「嘘でしょ」

「嘘みたいだろ。いまの僕にできるのは、
ホスピスでターミナルケアを受けることらしいよ」

「何、そのホスピスって。ターミナルケアって、なんなのよ?
自分を賢く見せたいのか何なのか知らないけど、
やたら横文字を使うやつって、わたし大嫌いなの」

「いや、医者が言ったんだから仕方ないだろう。
僕も訊いたよ。ターミナルケアって何なんだって」

「で、何なのよ」

15 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:57:29 ID:BaXkk/Zo

「終末期医療のことだって。末期癌患者やエイズ患者の
人生の質(クオリティ・オブ・ライフ)を向上するために行う措置だとかなんとか。
目的は延命じゃなくて、苦痛を和らげるみたいな感じらしいよ。
ホスピスってのは、そのターミナルケアを行う施設のことで……」

「ふざけないで!」彼女の怒号が待合室に響く。

もともと静まり返っていた冷たい空気が、凍りついたような気がした。
誰もが口を固く結び、室内に響くのは、時計の針が時間を刻む音だけになる。
部屋中の視線が彼女に突き刺さったが、
当の彼女はまったく気にしていない様子だった。

「と、とりあえず、外に出よう。な?」僕は宥めるように言った。

「そうね」彼女は震えながら息を吐き出した。
そして、頭を掻き毟りながら早足で出口に向かう。
「ああ、もう! なんなのよ!」

あとで彼女に謝っておくべきなのかな。

16 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:58:39 ID:BaXkk/Zo

自動ドアをくぐり、病院の外に出た。足元に敷かれた石は乾いていた。
この病院には三時間ほど滞在していたが、
おそらくその間はずっと晴れていたのだろう。気温も上がっている。

「ほら、早く行く」
彼女は僕の右腕を掴み、早足で歩き出した。少し怒っているように見える。

「え? どこに? もしかして、他の病院に?」

「そうよ。ここのも藪医者よ」

僕は携帯電話をちらりと見た。
「もうお昼の三時じゃないか。ご飯でも食べて少し落ち着こうよ」

「君、自分の命が危ないかもしれないのに、よくそんな平気でいられるね」

「僕、医者の言葉はほとんど信じてないからね」

「ああ、そう」彼女はため息を吐いてから、
「そうね。ちょっと落ち着いた方がいいかも」、と言った。
吐き出した言葉とは裏腹に、どこか苛立っているような雰囲気だ。

17 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/10(月) 23:59:24 ID:BaXkk/Zo

「病院なんか明日行けばいいじゃないか。
きょうは君も疲れただろう。ちょっとゆっくりしようよ」

「なんで君のほうが余裕なの? もうちょっと危機感持ちなさいよ」

「大丈夫だよ。僕は死なない」

「だといいんだけどね」

彼女はそう言って、ふたたび僕を車の助手席に押し込んだ。
エンジンをかけると車は低く唸り、
スピーカーからベースの低音と息を吐くような男性の声が流れ始めた。

「じゃあお昼、何が食べたい?」彼女は前を見たまま言う。

18 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:00:06 ID:vduQb7aE

僕はなんとなく彼女の横顔を見た。
昔から何度も見ていたはずなのに、もしかしたら、
あと数えられるほどしか見られないのかもしれないなと思うと、
少し悔しい。そして、少しだけ怖くなった。

僕が死ぬだって? そんなのありえない。

頭ではそう思ってはいても、
絡みつく不安をすべて振り切ることはできなかった。
それどころか、彼女のことを見ていると、不安は風船のように膨らんでいく。

その風船は、いつか破裂するんじゃないかと思う。おそらく、萎むことはない。
そして風船が弾けたとき、僕は壊れてしまう。
肉体的にではなく、精神的に壊れてしまうような、そんな気がした。

そうなってしまった場合はどうしようか。
誰にも迷惑はかけたくないけど、たぶん僕にそんな器用なことはできない。
なら、どうする? 頭がぶっ壊れちまったら、僕はどうすればいいんだ?

19 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:01:16 ID:vduQb7aE

「なに? わたしの顔見てぼーっとして。話、聞いてたの?」

「え、ああ。うん、聞いてるよ」彼女の声で僕の思考は遮られた。
「金星の話だっけ?」

「違う。何を食べたいかって訊いただけよ。馬鹿じゃないの」

「うーん、食べたいものか」
くだらない冗談が真っ先に脳裏を過ぎったが、
それは内心に留めておくことにした。きっと怒られてしまう。

「スパゲッティが食べたいかな」

「うわ。ものすっごい普通」彼女は小さく吹き出した。

「何が面白いんだよ」

「いや、なんかね。君はいつも通りだなって」

「いいじゃないか。病魔とか余命とか、もう疲れた。
やっぱり、いつも通りがいちばんだよ」

「そうね」彼女は笑いながら言った。「普段通りがいちばんだ」

20 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:01:58 ID:vduQb7aE

*


「普段通りがいちばんだって言ってもね、だからって
その病気のことを無視していいってわけではないと思うの。わたしはね」
彼女は皿の上のあさりの貝殻をフォークで転がしながら言った。

「ほえもほおはえ」と、僕。
それもそうだね、と言ったつもりが、口いっぱいの麺に舌の進路を遮られてしまった。
スパゲッティってのは、どうしてこんなに美味いんだろうか。

「口の中を空にしてから話してくれる? いまの君、不細工なハムスターみたいだよ」

いい例えだ、と思ったのと同時に、それはハムスターに失礼じゃないかと思ったが、
どちらの言葉も黙って麺といっしょに咀嚼し、飲み込んだ。「うん。悪かった」

21 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:03:09 ID:vduQb7aE

ファミリーレストランは想像以上に空いていた。
僕ら以外の客は、四人で駄弁っている学生らしき男たちと、女性二人組しか見当たらない。
きょうは平日だし、時間も中途半端なので、当然といえば当然かもしれない。
もう少し時間が経てば学生の下校時刻になるので、ここもいやというほど繁盛するだろう。

ならば、あの学生らしき男たちはなんなんだと思ったが、いまはそれどころではない。
自分の命と他人への興味を天秤にかけて、自分の目というフィルターを通して
それを見れば、結果は明らかだ。重いのは自分の命。僕の命だ。

「でさ、とりあえず訊きたいことがいくつかあるんだけど、いいかな」彼女は言った。

「あ、はい。どうぞ」

22 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:04:09 ID:vduQb7aE

「このままその病気を放っておくと
君の命が危ないってのは分かったんだけど、具体的にどうなるの?」

「いまは指が千切れたりするだけみたいだけど、
いずれは脚とかも千切れるかもしれないって。
千切れはしなくても、麻痺とか。

まあ、医者の話がほんとうなら、身体はぼろぼろになるだろうね。
仕舞いには感覚も死んでいくらしいし。
視覚に、聴覚に、嗅覚に、味覚に、痛覚に……あと何かあったっけ? あ、触覚か?」

「もういい。分かった」彼女はゆっくりとこぶしを僕のほうに突き出しながら言った。
「じゃあ次の質問。小指が千切れちゃったけど、痛くないの?」

「痛くないよ。千切れるちょっと前から、皮膚の内側が
腐った木みたいにぼろぼろになってたみたいだ。
その時点で感覚は死んでた。痛覚も死んでたんだから、痛みも何もないよ」

23 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:04:59 ID:vduQb7aE

「ちょっと待って」彼女は訝しげな視線を僕にぶつけた。
「つまり、前から小指の感覚がなかったの?」

「え、いや。まあ、一、二週間前から」

「なんでそのとき病院に行かなかったの?」

「病院が嫌いだから、です」僕は病院と怒った彼女が苦手だ。
いまの状況は、はたから見れば修羅場にでも見えるのかもしれない。

「はあ」彼女は呆れとも怒りとも取れるため息を吐き出した。
「まあいいや。どうせ治療方法はないんだし、行っても仕方なかったよね」

「そういうことにしておいてください」

24 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:05:39 ID:vduQb7aE

「じゃあ、次の質問ね。君、これからどうするの?」

「どうするって」

「もし身体が駄目になったら、
仕事もやめなきゃいけないし、介護も必要になるんじゃないの?」

「ああ」確かにそうだ。「全然考えてなかった」

「どうする? ホスピス行く?」

「それだけは絶対にいやだ。
それに、僕が一年と五日後に死ぬと決まったわけじゃない」

「そうね」彼女は弱々しく微笑んだ。「君は死なない」

「そうだ」僕は無理やり笑顔を作った。「僕は死なない」

結局、僕らは何も答えを出さずに店を出た。馬鹿だ。大馬鹿野郎共だ。

25 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:06:20 ID:vduQb7aE

その後、僕は彼女に自宅まで送ってもらい、
彼女は「次の休みにまた病院に連れて行くからね」
という捨て台詞を残して帰っていった。相変わらず、お節介なやつだ。

言い忘れたことがあったが、わざわざ車を止めてまで
伝えるようなことでもないので、そのまま黙っておくことにした。
どうせ、いずればれるだろうし。

僕は感覚のなくなった左腕を子どものようにふりながら、遠ざかる彼女を見送った。
遠方で沈んでいく太陽が、いままで見たことのないような鮮やかな光を放っているように見えた。

26 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:16:08 ID:vduQb7aE


2


「で、どうだったの。結果は」
彼女は待合室のソファに座りながら、聞き飽きたフレーズを口にした。
彼女も言い飽きたんじゃないかと思う。
この病院の待合室も、他と変わらず閑散としていた。

「どこに行っても同じだよ。
今更、『助かりますよお!』なんて言われたら、
『うわ。こいつ藪医者なんじゃないか?』って疑うよ」

「そっか」彼女はため息を吐き出しながら項垂れ、ゆっくりと立ち上がった。

27 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:17:08 ID:vduQb7aE

五月三日。僕らはきょう何件目かの病院を訪れていた。
ゴールデンウィークの真っ最中に病院を梯子している男女は
めずらしいんじゃないかと思う。彼女はわざわざ貴重な休日を割いて
僕を病院に連れて回ってくれているのに、
期待しているようなことはいまのところ何も起きていない。
どの医者も「残念ながら」という言葉から話を始めるのだ。

病気の発覚から約一ヶ月が経ち、僕の病状はゆっくりと悪化してきている。
左腕は完全に使い物にならなくなり、ついに先日腐り落ちた。
隻腕ってなんかかっこいいなとか思っていたけれど、不便でしかない。

そこで、ようやく僕は自らの置かれた状況を、なんとなく理解し始める。

28 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:17:44 ID:vduQb7aE

霧のように曖昧模糊な存在だったそれは、
死という輪郭を持って僕の前に現れた。
いや、それは最初から目と鼻の先にあったが、
僕が今ごろになって気づいただけなのかもしれない。

最近は右足が重く感じるし、夜もあまり眠れなくなった。
心音がうるさくて、睡眠どころじゃない。怖いのだ。
それに、僕の内側の風船はものすごい速さで膨張している。
破裂するのも時間の問題じゃないかと思う。

仕事も辞めた。
おかげで膨大な時間を手に入れたが、何か大事なものを失った気がする。
そして、もともと狭かった交友関係の輪は更に狭まった。
フラフープからドーナツだ。仕舞いには指輪だ。

当たり前だが、給料も貰えなくなった。
少ない貯金で一年を乗り切れるような気はしないが、仕方ない。
奇病なのに死因は飢餓とかにならなきゃいいな、と他人事のように思った。

29 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:19:05 ID:vduQb7aE

ガラス戸を押し、病院の外に出た。
すでに太陽は完全に姿を隠し、暗い空では
月がアスファルトを睨みつけるように光を投げている。
足元の石畳は虫塗れの街灯に照らされ、不気味に浮き出ているように見えた。
もう五月になるというのに、空気は未だに冷たい。いや、僕の感覚がおかしいのか?
全身に叩きつけるいやな風が、僕を震えさせた。

「また、明日にしよう」僕は言った。

「そうだね、帰ろう」と、彼女。「あ、晩ご飯はどうする?」

「僕は、まあ適当に」

「なにそれ、わけ分かんない。いっしょに食べに行こうよ」

「そうできたらいいんだけど、恥ずかしいことにお金がね」
さすがに夕食の分くらいは持っているが、先のことを考えると懐が寒い。

30 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:19:48 ID:vduQb7aE

「仕事、辞めちゃったのよね。うーん」

彼女は腕を組んで思考を巡らせた。
ここで「奢ってあげよう」とは言わないのが彼女だ。
僕は彼女のそういうところが気に入っている。

「お!」しばらくすると、彼女は目を輝かせ、「いいことを思いついた」と言った。
『いいこと』というのは、思いついた本人にとっては素晴らしいアイデアなんだろうが、
周りから言わせて貰えば大抵の場合、それは『いいこと』ではない、と思う。

しかし今回は例外だった。「わたしの家で食べよう」

「それはつまり、どういうこと?」

「わたしが料理を作って、わたしと君がそれを食べるってこと」

「それは嬉しいけど、きょうは君も疲れてるだろうし、悪いよ」

「いいよ、わたしが好きでやってるんだし。じゃあ決定ね」
彼女はそう言うと、軽やかな足取りで車に向かった。
揺れる長いスカートが、ものすごく邪魔そうに見える。

31 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:20:40 ID:vduQb7aE

僕も彼女の後を追うように、のろのろと歩きだした。右足が重くて、歩きづらい。
彼女に追いつくと、いつものように車の助手席に座り、シートに凭れた。
彼女はいつものように運転席に座り、エンジンをかけた。
スピーカーから聞こえてくる男性の声も、いつもと変わらない。

変わっていくのは、僕の見た目だけだ。
いつかは怪物のようになってしまうのかもしれない。
もしくは、脚も、腕も、全部腐って、
延々と涎を垂らし続ける達磨みたいになってしまうのかも……。

「どうしたの? 顔色悪いよ。窓開けようか?」

「ああ、いや」彼女の声により、意識が妄想の世界から帰ってきた。
なんてことを考えてたんだ、僕は。
「君がほんとうに料理できるのか心配していたんだ」

「失礼な。できるよ」彼女は少しふくれた。「心配して損したかも」

「心配してくれてありがとう」僕は窓に映る彼女の顔を見ながら言った。

返事はなかった。

32 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:21:46 ID:vduQb7aE

*


彼女の家は、十階建てマンションの十階にあった。
僕はここで、エレベーターのありがたさを改めて思い知る。

彼女が鍵を挿し、扉を開けると、まず最初に感じたのが甘い匂いだった。
なんだか落ち着かない匂いだ。でもやっぱりこの娘も女の子なんだなと、しみじみ思った。

靴を揃え、彼女の後を追い廊下を渡ると、リビングにぶつかった。
リビングの中心辺りにはローテーブルとソファーがあったが、
僕はとりあえず、ローテーブルの脇の床に腰を下ろした。

33 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:22:40 ID:vduQb7aE

リビングの隣はキッチンだ。そこから彼女の鼻歌が聞こえてくる。
部屋を見渡しても、どこもかしこも小ざっぱりしていて、やはり落ち着かない。
女の子らしいといえばそうなのかもしれないが、何か僕のイメージとは少し違っていた。
僕の中の『彼女像』は、子どものときの無邪気な彼女のままで止まっていたのかもしれない。

当たり前だが、彼女は歳をとり、大人になったのだ。

僕はどうなんだろう。なんとなく、そう思った。
思考がふたたび妄想の世界に飛び込もうとしたところで、キッチンから彼女の声がした。
「どうしたの、ぼーっとして。
そんな猫みたいに背中丸めてないで、もうちょっと寛げばいいのに」

「無茶言うなよ、寛げだなんて。僕は女の子の家に上がり込んで、
いきなりリビングで寝転び出すような男じゃないよ」僕は適当なことを言い、
それから真横に身体を倒し、絨毯の上に寝そべった。

「馬鹿じゃないの」彼女は微笑んだ。
「ちゃっちゃと作るから、そこで寝転んでて」

「うん」僕はなんだか嬉しくなった。「ありがとう」、と言うと、
「どういたしまして」と素っ気ない返事が返ってきた。

僕は余韻に浸り、甘い匂いに包まれながら、いつの間にか微睡んでいた。
落ち着かないとか思っていたのは何だったんだろうか。

34 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:23:52 ID:vduQb7aE

目を覚ましたのは、それから三十分くらい経ってからだった。

「ほら、起きて。冷めちゃうって」

ゆっくりと瞼を開く。細長い視界に映ったのは、彼女の白い足だった。
彼女は僕の隣に座りながら、僕の頬をぺちぺちと叩いているようだ。
ものすごくいやな夢を見ていたが、そんなことはどうでもよくなった。

「ねえ、痛いんだけど」僕は床に顔をへばりつけながら言った。

「あ、起きた? ほら、晩ご飯冷めちゃうよ」

「うん、ごめん。あと、そろそろ頬を叩くのをやめてくれないかな」痛い。

「だってこうしてないと、君、また寝ちゃうでしょう」

「よく分かってるじゃないか……」僕はゆっくりと身体を起こした。
右腕だけで起き上がるのは未だに慣れない。
ほんの数秒だが、いままでよりも少し時間がかかってしまう。

35 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:24:35 ID:vduQb7aE

「君の寝起きの顔、おっさんみたいだね」
彼女は吹き出した。「二十代には見えないよ」

「うるさいな」僕はテーブルの上に目をやった。
「で、君は何を作ってくれたのさ」

「スパゲッティです」

「それは素晴らしい」味は大丈夫なのか、と密かに思ったのは内緒だ。
しかし、実際に口に入れてみると、称賛の言葉しか出てこなかった。

「美味い」

「参ったか」彼女は誇らしげに言った。可愛らしいハムスターのようだ。

「参った参った」

36 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:25:14 ID:vduQb7aE

「ちょっと気になってることがあるんだけど」
彼女は唐突に言う。「いま訊いてもいいかな?」

「ん、ほうほ」僕は不細工なハムスターらしく麺を頬張っている。
すぐに咀嚼し、飲み込む。「何?」

「なんでそんなに病院が嫌いなの?」

「なんでって、昔いろいろあったんだよ。あんまり言いたくないな」

「良いじゃないの。君とわたしの仲じゃない」

どういう仲なんだ、と思ったが、黙っておくことにした。
代わりに、僕は渋々と昔話を始めた。

「……昔ね、脱水症状だったかな? まあ、詳しいことは忘れたけど、
身体の調子がものすごく悪かったことがあってさ。
それで、そのときに近くの病院に行って
点滴をしてもらったんだ。わざわざ手の甲に注射器を刺して、大げさなんだよ」

37 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:26:09 ID:vduQb7aE

小学二年生の頃だ。
喚き散らす僕を母が押さえつけ、医者が手の甲に注射器を刺した。
痛くて堪らなかった。
部屋中の人間が敵に回ったように見えたのを未だに憶えている。

そこで僕は、子どもながらに「もう二度と点滴なんて受けるものか」という
ちっぽけな決意をしたが、このあとも
二回ほど手の甲に注射器を突き刺すことになった。現実は非情だ。

脳のほぼ真ん中に近い位置で、その記憶は居座り続けている。
さっさと消えてほしい苦い思い出だ。

「それで?」

「え、いや。……それだけです」
彼女の期待を裏切るようで、何か悪いことをしているような錯覚に陥った。
同時に、ものすごく恥ずかしい。視線は自然と下に向かっていた。

38 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:26:58 ID:vduQb7aE

「え?」彼女は呆れを隠しもせずに言った。
必死に笑いを堪えているようだが、口元が緩んでいる。
「それはつまり、点滴が怖いってこと? だから病院が嫌いなの?」

「そうです、そうですよ」僕はいじけた子どものようにぼそぼそと言った。

「え? ほんとうにそれだけなの?」

「そうだよ! わざわざ確認しないでくれ! だから言いたくなかったんだ!」

「え? え? 病院嫌いって、え? 点滴が怖いからなの? 女の子かよ!」
彼女は吹き出した。仕舞いには腹を抱えて床に転げた。

僕はそれを横目で見ながら、やけくそで冷めたスパゲッティを頬張った。
彼女の分も勝手に食べてやった。

悔しいが、美味い。

39 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 00:27:35 ID:vduQb7aE
続く

40 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 01:17:22 ID:KQnxTHU6
のまひゅ
思い出した

支援

41 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 01:51:39 ID:BQdzMYDM
丁寧で読みやすいな
続き待ってる

42 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:37:15 ID:fda7aQIA

*


「じゃあ、僕はそろそろ帰るよ」僕は立ち上がった。
時計の針は午後九時を指し示している。
カーテンは閉じきっているので外は見えないが、おそらく真っ暗なのだろう。

「どうやって帰るの?」
彼女は膝を抱えながらソファーに座っている。

「どうやってって、電車しかないだろう。
懐が寒いって言っても、流石に電車賃くらいはあるよ」

「ここから駅までは遠いよ? 大丈夫? 怖くない?
注射器持った医者がうろついてるかもよ? ふふ」

「おちょくってるのか? それともあれか。君が駅まで送ってくれるのかい」

「やだ。めんどくさい」

「だよね」

43 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:39:00 ID:fda7aQIA

「泊まってけばいいじゃないの」

「どこに」

「ここに」彼女は床を指差した。

「それはちょっと」

「いやなの?」

「いやじゃないけど、ほら。着替えとか布団とかないしさ」

「そのままでいいじゃない。布団なら、わたしのがあるし。
わたしはソファーでも寝られるよ」

「ちょっと待ってくれ。そういうことじゃないだろう。
それに僕だってソファーで寝られるよ」

「病人は病人らしく布団で寝なさいよ」無茶苦茶だ。

「いやいや、君の布団で僕が寝るってのか。
それはまずいだろう。じゃなくて、君に悪いだろう」

「何がまずいのよ。
わたしがいいって言ってるんだからいいのよ。はい、決定ね」

44 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:41:16 ID:fda7aQIA

駄目だ。勝ち目がない。僕はため息を吐いた。
彼女は昔から自分の考えは曲げない人間だった。
そして僕は押しに弱い。

「分かった、分かったよ。きょうはここに泊まらせてもらうことにする。
でも僕はソファーもしくは床で寝るよ。ここだけは譲れない」

「うーん。そこまで言うならいいけど、理由を聞きたいかな」

「理由って、当たり前だろ。寝られるわけないだろ」

「だから、なんで寝られないのって訊いてるんじゃない」

「なんでって、男はみんなそうなんだよ」僕は適当なことを言った。

「ほー」彼女は膝を抱えたまま、ソファーの上で前後に揺れ始めた。
「男だって。女の子みたいなのにねえ?」そして小さく吹き出した。「点滴って。ふふ」

45 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:41:59 ID:fda7aQIA

「その話はもういいだろ」

「そうだね」彼女はまだにやついている。
「じゃあお風呂にでも入ってさっさと寝よう。
きょうは疲れた。身体が重い。あ、先に入る?」

「僕は別に入らなくても大丈夫だけど」

「君は良くてもわたしは良くないの。あ、いっしょに入ってあげようか?」

「馬鹿じゃないのか」心臓が爆発するかと思った。

「冗談よ」彼女は廊下のほうに歩いていった。

結局、彼女が先に入り、あとで僕が入ることになったらしい。

46 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:44:42 ID:fda7aQIA

片腕を失ってからは、ほとんど湯船に浸かっていない。
左腕がもげた断面は腐った木のようになっていて、
水につけると木屑のようにぼろぼろと、
かつて肉だった焦げ茶色のものが皮膚の内側から毀れ落ちてしまう。
痛くはないが、見ていてあまり気持ちのいいものじゃない。
それでも湯船に浸かっていいのだろうか。

という旨を風呂上りの彼女に話すと、「断面にこれを巻け」と言って、
輪ゴムとビニール袋を渡された。腕に袋を被せて、ゴムで止めろということらしい。

なるほど、これなら大丈夫だなと思ったが、自分ひとりではなかなか巻けない。
僕は不器用だ。なので嫌々ながら、彼女に巻いてもらうことにした。
彼女にこんなの見せたくなかったけど、仕方ない。

47 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:45:38 ID:fda7aQIA

僕はシャツを脱ぎ(これも地味に時間がかかる)、上半身裸になった。
彼女の視線は、かつて僕の左腕があった場所に伸びている。表情は明るくない。
なんだか申しわけない気持ちになった。

「ごめんよ、変なの見せちゃって。気持ち悪いだろ」

「いいよ、べつに。お風呂が腐った肉片塗れになるよりはマシよ」

「そう言ってくれるとありがたい」

「ねえ、ほんとうに痛くないの? これ」
彼女はおどおどとしながら、僕の左腕の断面を覆うようにビニール袋を巻きつけた。

「大丈夫だよ」

「それならいいんだけど」それから、ビニール袋の上に輪ゴムを巻きつけた。
ぱちん、と心地良い音が鳴る。「はい、できた」

「悪いね」僕は暗い廊下を歩き、風呂場に向かった。

48 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:49:54 ID:fda7aQIA

*


「どうだった? 久しぶりの湯船は」
彼女はソファーの上で膝を抱えて座りながら言った。
ときどき欠伸をこぼし、眠そうな顔をしている。

僕は先ほどまでと同じ服を着て、リビングに戻ってきていた。
さっきと違うことといえば、
頭に甘い匂いのするバスタオルを引っ掛けていることくらいだ。

「全然落ち着かなかったよ」

「どうして?」

「当たり前だろ。男はみんなそうだよ、たぶん」身体が硬くなってしまう。

「君は女の子みたいなのにね」

「君には負けるよ。そんな可愛らしいパジャマなんか着ちゃって」

「そうでしょう、可愛いでしょう。惚れちゃった?」

「惚れた惚れた。べた惚れだよ」

「じゃあ結婚する?」

「それは、また、考えておくよ」心臓が爆発するかと思った。

49 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:50:44 ID:fda7aQIA

「なんでそこだけそんなに真面目に答えるのよ。冗談じゃないの」

「いや、そんなに怒らないでくれよ。悪かった」

「いや、なんで謝るのよ。はあ。なんか調子狂うね。疲れてるのかな」

「たぶんそうだよ。君、きょうはちょっと変だ。僕も疲れた」
この家に来てからは異常に疲れた気がする。

「だね。きょうはもう寝ることにする」彼女は廊下に向かった。寝室に行くらしい。

「おやすみ」僕は欠伸をしながら軽く手を振った。
それから、ソファーに座り込んだ。

50 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:52:22 ID:fda7aQIA

そこで彼女は立ち止まった。
「ねえ。ほんとうにソファーで寝るの? まだちょっと寒いよ?」

「大丈夫だって。どうってことないよ」
瞼が重い。思考が停止しかけている。僕の意識はほぼ半覚醒の状態だった。

「ほんとうに大丈夫? 風邪引いちゃうんじゃないの?
わたしは君といっしょの布団で寝てもいいけど、どうする?」

沈黙。

「ごめん。やっぱりいまのは無しで。忘れて」
彼女は沈黙に耐え切れなくなり、すぐに口を開いた。

「そうか。そりゃ、残念だ」僕はそう言い残して、微睡みの中に落ちた。

51 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:53:04 ID:fda7aQIA

翌、五月四日。
僕は窓に撃ちつける雨音に揺さぶり起こされるように目を覚ました。
閉め切ったカーテンの隙間から、いまにも消えてしまいそうなひょろ長い光が伸びている。
時計の針は五時半を指していた。久しぶりにぐっすりと眠れたようだ。
しかし、まだ彼女は寝ているだろう。きょうも休日なので、彼女のことは放っておくことにした。

知らぬ間に僕にかぶさっていた毛布を払いのけ、カーテンを開ける。
窓の向こう側は夜を思わせる暗さだった。
空は濃灰色の雲に覆われていて、そこから滝のように水が降ってきている。
遠くで弱々しく明滅する街灯の光が、まるでモールス信号で助けを求めているように見えた。

せっかくのゴールデンウィークなのに、
出かける予定だった人は気の毒だな、と思った。ざまあみろ、とも。
いつから僕はこんな卑屈なやつになってしまったんだろう。

52 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:54:08 ID:fda7aQIA

カーテンを閉じ、毛布に包まってソファーに座り込んだ。

暗くじめじめした部屋で、ひとり。
これがいまの僕の本来あるべき姿なのかもしれない。
そう考えると、昨日の幸せだった時間から、
現実に引き摺り下ろされるような感覚に陥った。

雨音がさっきよりも大きく聞こえる。
稲光がカーテンの隙間から入り込み、
数秒後に猛獣が唸るような低い音が空気を揺らした。

冷えた空気は皮膚を刺すようだ。
暗闇と孤独に押しつぶされそうになり、僕の中の風船は膨張を再開した。
何かに責められているような気分だ。

53 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:55:06 ID:fda7aQIA

やめろ。やめてくれ。
僕は必死に頭を振り、脳を攪拌してぐちゃぐちゃにしてしまおうと試みたが、無駄だった。
やめてくれよ。
雨音は無視できないほどの轟音を響かせながら、アスファルトに叩きつけている。
もう何も聞きたくない。
耳を塞いでそれを遮ろうと試みたが、僕には手がひとつだけ足りなかった。

駄目だ。考えるな。考えないようにはしていたが、
僕にはそれを無視できるほどの強い意志は備わっていなかった。

無理だ。
思考は簡単に自分の深い部分に落ちた。

僕はほんとうに死んでしまうのか?

もう彼女には会えなくなるのか?

家族にこのことを伝えるべきか?

いつまでこんな幸せな日が続けられるんだ?

誰かに迷惑をかける前に、さっさと死んでしまうべきなのか?

決壊したダムから噴き出す水のように、僕の脳から疑問が溢れ出した。

54 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:56:13 ID:fda7aQIA

いまや僕にとって、死というのは遠いものではない。
向こうはゆっくりと、僕の心臓に手を伸ばしている。

寿命については未だに半信半疑だが、
左腕が腐り落ちたことにより、「自分の命が危ない」ということだけは強く理解した。
「ああ、僕は死ぬのか。大変だなあ」、と他人事のように思っていたが、
そろそろそういう風にはいかなくなった。
医者の言葉がほんとうなら、僕に残された時間はもう一年もない。

だからって、何かが変わったわけじゃない。何も分からないままだ。
どうしたら元の生活に帰ることができるのか、残された日をどう使うべきか、
僕はそのどちらについて考えるべきなのか、それすらも分からない。

ひとりで大丈夫だ、と二十歳になった頃は思っていたが、
結局肝心なときは全然駄目だった。僕ひとりじゃ何もなせない。
心細くて、それこそ死んでしまいそうだ。

55 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:57:46 ID:fda7aQIA

助けてほしい。
彼女は僕を見捨てずに助けてくれるだろうか。

彼女の前ではできるだけ明るく振舞っていよう、と決めていた。
そうしていないと、彼女は僕から遠ざかっていくんじゃないかと、そんな気がしたから。
彼女はそんなやつじゃないとは分かっていても、
どうしてもそう考えずにはいられなかった。
僕が壊れていくのと同じ速さで、僕の大事なものは失われている気がするから。
気づかないうちに、ゆっくり、ゆっくりと――。

でも彼女だけは。彼女だけは変わらずにいてくれる。
そう信じるしかなかった。情けないことに、頼れるのは彼女しかいない。
両親や妹は、きっと僕のことなんていなかったかのように扱うだろう。
僕に閉じこもっていた時期があったというのは、家族にとっての恥らしい。

56 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 20:58:41 ID:fda7aQIA

毛布に包まって縮こまって、
思考を自分の深いところに沈めていると、堪らない気分になってくる。

「なんだこれ。泣きそうだ」僕は思わず小声でこぼした。
声に出して言わないと、崩れてしまいそうだった。

「なんだよ、これ……」

左腕があったはずの場所に、針が刺さったような痛みが走る。
僕は頬と毛布を濡らしながら、暗い部屋で自分の殻に籠った。

彼女はまだ起きてこない。
時刻は午前五時四十五分になろうとしていた。

57 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 21:02:28 ID:fda7aQIA

*


目覚めてから二時間が経った。
僕は未だにソファーに座り込んでいる。
雨は依然として降り止まない。それどころか、勢いを増してきた。

彼女はいつ起きてくるのだろう。起こしに行ったほうがいいのかな。
そんなことをぼんやりと考えていると、テーブルの上で携帯電話が小刻みに震え始めた。
僕の携帯電話だ。ゆっくりと手を伸ばし、画面を見た。
どうせ仕事も辞めたんだからさほど重要な電話でもないだろうし、無視してやろうかと思ったが、
画面に表示されたのが彼女の名前だったので、すぐに出た。

「もしもし? どうしたの?」

『うん。あの、まだわたしの家にいる?』
電話の向こうの彼女の声は、なんだか弱々しかった。

「うん。いるよ」

『ちょっと、助けてほしいかな。身体が重くて動かないの』

「分かった」
僕はさっさと電話を切り、早足で薄暗い廊下を渡って寝室に向かった。

58 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 21:03:30 ID:fda7aQIA

寝室の戸を開ける。十畳ほどの空間には
いくつかの家具が配置されていたが、
真っ先に僕の目に入ってきたのは
頬を真っ赤に染めながらベッドに横たわる彼女の姿だった。

「大丈夫?」僕は訊いた。

「大丈夫……じゃないかも」彼女は弱々しく息を吐き出して笑った。
「たぶん、ただの風邪だけど」

「僕じゃなくて、君が風邪を拗らせちゃったのか」

「情けないよね」

「昨日の病院で誰かから貰ってきたのかな。もしそうだったらごめんよ」

「別に、悪いのは君じゃないでしょ」
彼女は大きく息を吐き出した。それから咳き込んだ。

59 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 21:05:08 ID:fda7aQIA

「つらそうだね。病院行く?」

「やだ」彼女は窓の方を見ながら言った。「こんな雨の中出かけたくない」

「そんな子どもみたいなこと言ってる場合じゃないよ」

「点滴怖い男の君にだけは言われたくなかったなあ」

「それもそうだね」僕は頭を掻いた。「氷枕でも持ってこようか?」

「いや、いらない。カーテンを開けてほしいの」

僕は彼女の指示通り、カーテンを開けた。
窓の向こうは相変わらずの雨模様だった。「これでいいの?」

「うん、ありがと。あとはそこでじっとしてて。できるだけこの部屋から出ないで」

「え? どうして?」

「風邪、うつらないかなって思って。君にもこの苦しみを味わってもらいたい」

「そっか」

60 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 21:06:13 ID:fda7aQIA

部屋に響くのは、雨音と時計の針が時間を刻む音だけになった。
僕は、この沈黙が醸し出す不思議な心地良さが好きだ。
この、彼女といるときだけに感じる例えようのない空気が好きで堪らない。

僕も彼女も口を閉じ、小さな窓から外の景色を眺めていた。
ガラスにへばりついた雨粒のおかげで向こう側はほとんど潰れて見えたが、
僕らは窓から視線を外さなかった。

しばらくそうしていると、彼女が口を開いた。「雨ってさ、なんかいいよね」

「そうだね。音とか、傘とか、なんか独特の雰囲気があるというか」

「わたしは音と、どっかから垂れてきた雨粒が葉っぱにぶつかって、
その葉っぱが大きく揺れてるのを見るのが好きかな。なんか面白いの。
あと、蜘蛛の巣に引っかかった雨粒とか、綺麗だよね」

「マニアックだね」

61 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 21:07:10 ID:fda7aQIA

「虹とか水溜りとかも好きだよ」

「僕も好きだけど、雨の日は洗濯物を外で干せないのがつらいよね」

「うああ」彼女は謎のうめき声を発した。
「そういや、洗濯機回さなきゃ……。ああ、もう明日でいいや……」

そこで僕は煩悩を超高速で回転させた。
「もしかして、いま僕が脱衣所に行けば、君の下着を拝めるのかな」

「そうだね……。拝んでも嗅いでも使ってもいいけど、なるべく汚さないでね……」

「使うって……」僕は苦笑いを浮かべながらも、例のごとく心臓が爆発するかと思った。
まさかそんな返事をもらえるとは。どうやら彼女は相当参ってるらしい。

「冗談だよ」僕は続けて言った。「なんか、君らしくないね」

「そうかな」

「昨日もちょっと変だったし。あ、もしかして、風邪のせいだったのかな」

「さあ」彼女は真っ赤な顔で、弱々しく微笑んだ。「どうかな?」

62 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 21:07:55 ID:fda7aQIA

部屋に響くのは、ふたたび雨音と時計の音だけになる。
しばらくすると彼女は滔々と話し始める。僕はそれを聞く。
それらを何度も繰り返しているうちに、仕舞いには昼になってしまった。

僕(不器用)は苦戦しながらお粥を作った。
彼女はそれを訝しげな表情を浮かべながら食べてくれた。
「レトルトのご飯の味がする」というありがたいお言葉を貰えたので、よしとしよう。

昼食を終えた僕らは午前中と同じように、ひたすら他愛無い話をした。

過去の話。現在の話。そして、未来の話。
僕にとっては未来の話だけが、少しだけ遠くに感じられた。
手を伸ばしても、そこまであと数ミリという位置で、そいつは笑っている。

だから僕は、彼女が黙る度に考えてしまった。

いつまでこんな幸せな日が続けられるだろうか?

63 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 21:08:47 ID:fda7aQIA

雨粒が窓を叩く勢いは弱まってきたが、未だに雨は降り続いている。
窓の外には、夜の暗さが降ってきていた。

「夜だね」彼女はふたたび話し始めた。

「うん。誰がどう見たって夜だ」と、僕。

「きょうはごめんね。一日中付き合わせちゃって」

「謝らなくていいよ。僕が好きでやってるんだし」

「そうだっけ?」

「そういうことにしておいてあげよう」

「ありがとう」彼女はゆっくりと上体を起こした。「すっかり良くなった」

「そりゃ良かった」

64 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 21:10:13 ID:fda7aQIA

「どうする? もう帰っちゃうの?」

「どうしようかな」帰りたくない。子どものように、思った。

しかし彼女は僕の頭の中を見透かしたかのように言う。
「わたしは明日まで休みだし、きょうもここに泊まっていけば?」

そこで僕は無意識のうちに、「いいの?」と訊いてしまった。

「なに? もしかして泊まりたかったの?」

「いやあ、実はそうなんだ」僕は嘘を吐くのが苦手なので、正直に言った。

「ほー」彼女は膝を抱え、前後に揺れ始めた。
「そんなにわたしの下着を拝みたいのかあ」

「そりゃもう。夜も眠れないほどだよ」

「見せてあげようか?」

「ほ?」最近気付いたのだが、どうやら心臓は爆発しないらしい。
「いや、冗談だよね?」

「冗談に決まってるじゃないの」

「だよね」

65 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 21:11:43 ID:fda7aQIA

*


五月五日。
垂れ込めた雲の隙間からこぼれ落ちるような細い雨が、未だに降り続けている。
水溜りに幾多もの波紋を作り、アスファルトを濃い灰色に染め、
ぱちぱちと何かが弾けるような音を響かせる。
昨夜で止むんじゃないかと思っていたが、なかなかしぶとい。

僕は昨日と同じように、リビングのソファーに座り込んでいる。

しかし、昨日とは違って、身体が異常に重く感じられた。
動くのもめんどくさいと思えるほどの倦怠感に、外も内も支配されている。
それに、身体中が熱い。特に顔が。いったい、どうなってるんだ。

という旨を、隣に座っている彼女に伝えると、彼女は「ごめん」と呟いた。

66 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 21:12:23 ID:fda7aQIA

「おめでとう。どうやら君の風邪は僕にうつったらしい」僕は咳き込んだ。喉が痛む。

「ほんとうにごめん。そんなつもりじゃなかったの」

予想外の反応に、思わずたじろいだ。
「え、いや、そんなに謝らないでくれよ。
別に君を責めようと思ったわけじゃないんだ。ごめんよ」

「うん……」彼女はそれっきり、黙り込んでしまった。
膝を折り、クッションを抱きかかえながら、それに顔を埋めている。

「きょうの君も、ちょっと変だよ。昨日とはまた違う感じだけど」

「そうかな」

「うん。なんかあれだね」僕は少し考えてから言った。
「まるで女の子みたいだ」

「失礼な。わたしは女の子よ」彼女は脹れた。

「そうそう。そんな感じだ」

「何がよ」

「いつもの君だ」

67 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 21:13:23 ID:fda7aQIA

僕はとりあえず、その場から立ち上がろうと右手に力を込めた。水が欲しい。
しかし、手に上手く力が入らなかったのか、
もしくは無意識が彼女に近寄ることを望んでいたのか、
僕の身体はバランスを崩し、彼女の肩に寄りかかる形になった。

「ご、ごめん」
僕は急いで元の体勢に戻ろうとしたが、
腕が二本あるのと一本しか無いのでは、それにかかる時間には差が生まれる。

「別にいいよ。そのままでも」彼女はぽつりと言った。

「え?」ふたたび右手の力が抜け、彼女に寄りかかる形になる。

「そのままでいてもいいよ。わたしはどこにも行かないから」

彼女は身動きひとつせずに言うと、黙り込んだ。
僕は彼女の言葉に甘え、ぼーっと肩に寄りかかっていたが、
頭は疑問と心配事と彼女の髪の匂いでいっぱいだった。

68 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 21:14:47 ID:fda7aQIA

彼女には、僕の心音が聞こえてるのか?
僕の体温が伝わっているのか?
僕の顔が異常に火照っていることに、彼女は気付いているのか?
僕の皮膚の内側で燻っている思いは、気取られていないのか?

熱でぼんやりとする頭で何度も同じことを考えたが、
当然のように答えは見つからなかった。
僕のような人間に、他人の気持ちを理解することはできない。

雨音だけがしばらくの間、リビングを埋め尽くしていた。
沈黙がたっぷり十分以上続いた後、彼女は口を開いた。
「きょうは泊まっていって」

「いいの?」

「うん。風邪うつしといて、それをひとりで帰らせるって、わたし最低じゃないの。
わたしは明日まで休みだから大丈夫だし。それに」彼女はそこで口を噤んだ。

「それに?」

「君が隣にいるとね、すごく落ち着くの」

69 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/11(火) 21:15:50 ID:fda7aQIA

彼女は黙る。僕は考えた。

いつまでこんな幸せな日が続けられるだろうか?

-SS, 切ない
-,

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